東京不幸中毒

幸せを追っかけても不幸にしかならなかったので、不幸を追っかけてみることにした

4回目の冬

他人と共有する掛け布団が恋しくて、心の震えないセックスをする。

この季節が大嫌い。

 

薄靄で遮られた弱々しい太陽の光も、散りきった街路樹も、さびしい音をたてる北風も、ぜんぶぜんぶ切り取ってしまいたい。

あまつさえ心の中は埋められない寂寞感でいっぱいなのに、目に見えるものまでこうなってしまっては持ち直しなんてできっこない。冬の夕暮れなんかチャイのスパイスと一緒に煮詰めて溶けてしまえばいいと、本気でそう思う。

 

黒い電線も、灰色のビル群も、目立つことだけを考えたネオンも、東京の景色は全力で私を殺しにかかってくる。たしかスイスに留学することを決めたのもこの季節だった。東京の景色が嫌で、ただひたすら逃げたかった。スイスの冬は輝いていたし、ロンドンの景色は雨によく似合っていた。東京に帰ってきて4回目の冬、私はやっぱりこの街が嫌になった。

 

友人と会えば何か変わるのかもしれない。仕事から逃れれば何か変わるのかもしれない。そんなことを一年中考えている間にまた冬が来る。一年のオワリだとか、イベントだとか、そんなうっとうしいものを押し付けられる。酒浸りの頭は冴えないし、煙草が眠気をもってくる。

 

なにか打ち込めることを作れと人は言うかもしれない。そんなことが気にならないくらい熱中していないことが悪だと言うのかもしれない。いや、正直打ち込むことはあるし、自分の可能性にワクワクだってしているんだよ。でも、大嫌いな冬の景色は嫌でも目に飛び込んでくる。

 

たとえ髪を明るくしても、目の周りをキラキラさせても、頬に上気したような血色チークをさしたとしても、弱い太陽光が部屋を彩ることはない。ふわふわした服を着たところで、冬のさびしさを一層際立たせる手助けにしかならない。アップチューンな音楽を聴いてもどこか空虚で、世界が輝くなんてことはない。それが冬という季節で、東京という街だ。

肩にずしりとのしかかるコートは背筋を曲げるし、身体は寒さから身を守ろうと肩をすくめさせる。内臓の不快から手のひらばかりに汗がにじむ。イヤリングの金具はキンキンに冷えて、どんどんかっこわるい姿になっていく。自分の理想から遠ざかる。

冴えない頭に重い身体、浮腫んだ頬と手首が熱っぽい。暖房の風は砂漠の砂みたいに全身を蝕んでいく。

早く過ぎ去ってくれと切に願う。もうこれ以上私をいじめないでくれと強く思う。

 

 思い出で汚しすぎてしまっただけかもしれない。それでもたしかにこの季節とこの街は、私に現実を、心の空虚を打ち付けてくる。

地上線急行に乗って遠くに行きたい。長すぎる冬を、過ぎ行く街並みの速さでごまかしたい。

 

ひとつの街に留まることが、この冬を永遠に感じさせる。